[ 記事作成日時 : 2015年6月4日 ]
[ 最終更新日 : 2020年6月21日 ]

看護職賠償責任保険「加入すべき?」手続きや更新、掛け金、賠償内容は?

看護師の賠償責任保険

これまで、病院内での医療事故に対しては、患者やその家族が損害賠償を求めるのは病院か担当した医師というケースがほとんどでした。

しかし最近は、医療にかかわった看護師個人が患者やその家族から訴えられ、損害賠償を求められるケースが増えています。

万が一に備え、看護師自身が自分の身を守るために加入が増えているのが、看護職賠償責任保険。加入方法や、どういった場合に適用されるのか、主な看護職賠償責任保険について、詳しくご紹介します。

看護職賠償責任保険とは?

看護師が業務を行っている中で発生してしまった医療事故に対して、法的責任を問われた場合に、損害賠償という形で守ってくれるのが看護職賠償責任保険です。

業務上で生じた損害に対する賠償請求は、「対人賠償」「対物賠償」「人権侵害に関する賠償」と大きく3つに分けられます。

対人賠償

対人賠償では、間違った点滴の投与や薬の誤配、処置のミス、患者移乗時の転落、医療機器の誤操作などによって、患者の容態が悪化したり障害を負わせてしまったりした場合に適用されます。 被害者となる患者の治療費、入院費、慰謝料、休業補償などを賠償します。

対物賠償

対物賠償は、患者の私物(眼鏡や携帯、時計など)や病院の機材の破損・紛失などがその対象となります。被害物品の修理費や再購入費を賠償します。

人権侵害に関する賠償

人権侵害による賠償では、患者のプライバシー侵害や個人情報などを含む秘密の漏えい、名誉棄損(きそん)などが賠償対象となります。

さらに、加入した看護職賠償責任保険によっては、上記3つの補償だけではなく、初期対応の費用(被害者への見舞費等)や法律相談費用、緊急措置費用(事故が起きたときの緊急対応で生じた費用等)なども網羅しています。

看護師の仕事は、患者の命を預かる部分もあり、医療チームや看護師どうしのコミュニケーション不足、行き違い、ちょっとした油断が大事故につながることもあるでしょう。万が一に備えて賠償責任保険に加入することは、看護師自身はもちろん、患者側の安心要素にもなります。

看護職賠償責任保険の加入は必要?

患者や家族からの損害賠償請求の件数は20年前の約1.5倍

病院内で発生した医療事故に対する患者や家族からの損害賠償を求められるケースは、裁判所ホームページ「医事関係訴訟に関する統計」によると、1999年には569件だったものが、4年後の2003年には1035件と倍増。この年をピークに、ここ数年は横ばい状態が続いていましたが、それでも2018年は803件と、20年前の約1.5倍です。

患者やその家族から損害賠償を求められる対象は、これまで病院や担当医がほとんどでした。しかし、看護師個人が損害賠償を求められるケースが増えてきています(日本看護協会「看護職賠償責任保険制度とは」)。

「いつ医療事故を起こしてもおかしくない…」看護師の不安

「2013年度看護職員の労働実態調査報告書」(日本医療労働組合連合会)によると、「この3年間で仕事上のミスやニアミスを起こしたことがある」と答えた看護師は、全体で85.4%。勤務形態で比較すると、「日勤のみ」の看護師が76.6%に対し、「3交替」は89.1%、「2交替」は85.8%と、夜勤がある看護師が10%以上高いことがわかっています。

また、年代別で比較すると20歳代の91.0%が一番高く、年齢が上がるにつれて減っていきますが、50歳代でも約8割が「ある」と答えています。 このように、医療事故まで発展することはないにしても、ほとんどの看護師がミスやニアミスを日常的に起こし、「ヒヤリハット」を経験しています。

同じく「2013年度看護職員の労働実態調査報告書」では、看護師に「医療・看護事故が続く大きな原因」についても調査しています。その結果、以下のような理由が上位に挙がっています。

1位 慢性的な人手不足による医療の現場の忙しさ(79.7%)

2位 看護の知識や技術の未熟さ(36.1%)

3位 交替制勤務による疲労の蓄積

「看護の知識や技術の未熟さ」が2位に挙がっているのは、20歳代の看護師がミス・ニアミスの経験割合がもっとも高い結果と結びついているのでしょう。そして、1位「慢性的な人手不足による医療の現場の忙しさ」、3位「交替制勤務による疲労の蓄積」というのは、日勤専門の看護師より夜勤のあるシフト制看護師の方がミス・ニアミスの経験割合が高いことと直結しているといえます。

このように、多くの看護師が自分自身で「いつミスをしてもおかしくない」「医療事故につながりかねない」という経験をしていることから、看護職賠償責任保険の加入が増えています。

病院加入の賠償責任保険が看護師を守ってくれないケース

「勤務先の病院が賠償責任保険に入っているから、個人で加入する必要はない」と思っている看護師も多いでしょう。しかし、事故の原因や賠償内容によっては、病院賠償責任保険が看護師を守ってくれない場合もあります。

先にご紹介したように、病院内で発生した医療事故に対して、病院や医師だけではなく看護師も患者や家族からの損害賠償を求められるケースが増えています。

病院で医療事故が起こった場合、事故審査委員会によって審査が行われます。その中で看護職にも責任があると判断された場合、責任の割合や賠償額が検討され、看護師自身に保険金請求がされます。

また、看護師が患者の私物を壊してしまった、紛失してしまった、病院の医療機器を壊してしまったという場合も、看護師の責任が問われます。実は、看護職賠償責任保険で一番ニーズが高いのが、この「対物賠償」だそうです。その他、看護師個人が訴えられた場合の「争訟費用」、事故発覚直後の「初期対応費用」などは、病院賠償責任保険でカバーするのは難しいでしょう。

看護職賠償責任保険に加入するには?

看護職賠償責任保険制度は、日本看護協会会員専用のものをはじめ、民間の保険会社のものを含めいろいろあります。ここでは、おもな看護職賠償責任保険やその加入方法をご紹介しましょう。

日本看護協会の看護職賠償責任保険制度

日本看護協会が制度運営・契約者となる看護職賠償責任保険制度は、日本看護協会会員専用の制度です。 保険に加入するには、勤務先(非就業の場合は居住地)の都道府県看護協会に連絡し、まずは入会手続きが必要となります(日本看護協会の年会費5,000円の他、都道府県看護協会の年会費が必要)。そのうえで、専用の郵便振替用紙を取り寄せ、必要事項を記入して郵便局で手続きすれば加入となります。

掛け金:2,650円/年(2020年度)

補償内容:対人賠償1事故5000万円(補償期間中1億5000万円まで)、対物賠償1事故100万円(補償期間中100万円まで)、初期対応費用1事故500万円(うち見舞費用は1被害者10万円)、人格権侵害1事故5000万円(補償期間中5000万円まで)、法律相談費用1事故10万円(補償期間中30万円まで)他

補償開始日:毎月15日(土日祝日の場合は翌営業日)までの振り込みで、翌月1日から補償

事故が起こったとき:事故受付ダイヤル(無料)に電話

引受保険会社:損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、東京海上日動火災保険

Willnextの看護職向け賠償責任保険

日本看護学校協議会共済会が運営するWillnextの看護職向け賠償責任保険。補償内容によって2つのプランに分かれています。

日本看護協会の保険より掛け金は割高ですが、これには日本看護学校協議会共済会の年会費100円と共済制度運営費810円が含まれているので、トータルのコストは割安といえるでしょう。

日本看護協会の保険と対人賠償がほぼ同等となるのはAプランですが、対物賠償や初期対応費用などが低いため、A・Bどちらのプランを選ぶか検討が必要でしょう。

掛け金:Aプラン2,980円/年、Bプラン3,440円/年(2020年6月3日現在)

補償内容:

Aプランの場合 対人賠償1事故5000万円(補償期間中1億5000万円まで)、対物賠償1事故50万円(補償期間中1億5000万円まで)、初期対応費用1事故250万円(支払限度額は対人事故の基本契約と共有)、人格権侵害(支払限度額は対人事故の基本契約と共有)他

Bプランの場合 対人賠償1事故1億円(補償期間中3億円まで)、対物賠償1事故100万円(補償期間中1億5000万円まで)、初期対応費用1事故250万円(支払限度額は対人事故の基本契約と共有)、人格権侵害(支払限度額は対人事故の基本契約と共有)他

補償開始日:毎月25日までに入会申込書兼加入依頼書・口座振替依頼書の書類が到着した場合は、翌月1日から補償

事故が起こったとき:HPより専用の事故報告用紙をダウンロードのうえ記入し、取扱代理店であるメディクプランニングオフィスに郵送もしくはFAXで事故報告

引受保険会社:東京海上日動火災保険

民間代理店を通して個人で加入できる看護職賠償責任保険

日本看護協会や日本看護学校協議会共済会に加入せずに、看護職賠償責任保険に加入はできるのでしょうか?

勤務先の病院が団体契約をしている場合があるので、まずは確認してみましょう。そういったものがない場合は個人での加入となりますが、取り扱っている引受保険会社は以下の2社のみとなるようです。

上記の看護職賠償責任保険に個人で加入したい場合は、取扱代理店を通して手続きをします。代理店によって補償内容や掛け金、条件などが異なるので、よく比較・検討して加入しましょう。看護職賠償責任保険を取り扱っているおもな代理店は以下のとおりです。

【看護職賠償責任保険の取扱代理店】
  • エージェント
  • メディカル保険サービス

看護職賠償責任保険Q&A

「看護職賠償責任保険に加入したものの、それで本当に安心なの?」
「看護師を辞めたら、この保険はどうなるの? 働いていなくても更新した方がいいの?」 看護職賠償責任保険についてのよくある疑問にお答えします。

Q.看護師を辞めた場合、保険はどうなる?

脱退手続きは可能で、脱退日によって払戻金もあります。ただし、日本看護協会では退職と同時に保険を解約するのはすすめていません。

なぜなら、日本看護協会の看護職賠償責任保険で補償対象となるのは、契約期間内に「起こった事故」ではなく「発見された事故」だからです。そのため、退職した後で事故が発覚した場合、保険を解約していると補償対象になりません。賠償保障期間を確認したうえで、解約を検討するといいでしょう。

Q.賠償してもらえないケースはありますか?

例えば、日本看護協会の看護職賠償責任保険では、おもに以下のようなケースでは賠償の対象となりません。

  • 保険契約者または被保険者が故意に起こした事故、傷害の場合
  • 戦争や暴動、労働争議などの場合
  • 地震や噴火、洪水、津波、高潮といった天災の場合
  • 法令で定める所定の資格を持たない者による看護業務の場合
  • 美容を唯一の目的とした業務の場合
  • 海外で行った看護業務に起因する場合
  • 刑事訴訟となった場合 他

多くの看護職賠償責任保険では、上記のケースでは補償の対象とはなりません。

この中で相談が多いのが、「美容を唯一の目的とした業務の場合」。

美容外科や美容皮膚科、審美歯科などに勤めている看護師は加入できる賠償責任保険がなく心配でしょう。

美容に比重を置いた医療を行う病院では、多くの場合「美容医療賠償責任保険」に加入しています。この保険では、医師・歯科医師の監督下で看護師が行った美容医療行為は賠償保険の対象となります。勤務している病院、これから転職しようとしている病院の保険加入の有無を確認してみてはいかがでしょうか。

Q.看護職賠償責任保険の更新はどうする?

看護職賠償責任保険は基本、1年満期の契約となり、自動更新はされません。

日本看護協会の看護職賠償責任保険は、毎年4月1日午後4時~翌年4月1日午後4時まで(日本看護協会「更新手続きについて」)、また日本看護学校協議会共済会の看護職賠償責任保険は毎年3月31日午後4時~翌年3月31日午後4時まで(日本看護学校協議会共済会「保険期間、加入資格」)の1年間契約としています(途中入会・解約にも対応しており、その場合は月割りの掛け金、返戻金があります)。

ただし、民間の代理店を通して個人加入した場合、契約期間はその限りではありません。

いずれにしても自動更新はされないため、保険期間が切れる前に更新手続きが必要となります。

民間の代理店を通して保険に加入した場合は、保険証券が作成されますし、契約期間が切れる前に更新の案内が届きます。しかし、日本看護協会の看護職賠償責任保険には保険証券がありません(日本看護協会「加入確認、加入者証等について」 )。そのため、うっかり更新手続きを忘れてしまうこともあるので、自身で加入期間を確認のうえ手続きをする必要があります。

まとめ

看護師が安心して業務が行え、万が一のときには強い味方となってくれる看護職賠償責任保険。どの保険に加入するかにもよりますが、月々200~300円の掛け金で安心が手に入るため、多くの看護師が加入するようになりました。

「ああ、あのとき加入しておけば良かった」と後悔するより、気持ち良く働くためのお守りとして加入を考えてみてはいかがでしょうか。