[ 記事作成日時 : 2013年7月19日 ]
[ 最終更新日 : 2020年1月26日 ]

看護師は給料が良くても昇給しない?収入の実態と昇給基準

看護師の昇給

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高給のイメージばかりが先行している看護師業ですが、基本給から見ればそれほど所得が高くはありません。

夜勤やシフト制といった厳しい業務の対価として、手当が上乗せされているのが実体です。

新社会人の層のなかでは、かなり高額に位置している看護師ですが、年次を追うごとに他業種に追い抜かれているというのが現実です。

看護師は高い昇給は望めないのでしょうか。看護師の昇給の現状とその基準、対策について解説していきます。

      
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看護師の平均年収の変化

新社会人層の中では上位クラス

看護師の給料が高いというイメージは、恐らくは初任給や新社会人にあたる若い世代の給与事情によるものと考えられます。

平成29年賃金構造基本統計調査によると、20~24歳の新社会人層の年収は労働者全体で314.9万円であるのに対して、看護師は389.0万円です。

年収にして約75万円、単純に月割りすると6万円以上もの差があります。これでは看護師が高い給料をもらえるという印象を与えるのも無理はありません。

しかし社会人全体の平均年収から見ると、平均年収は478.3万円で、男性給与所得者の平均年収491.2万円よりは低くなります。

ただし女性の給与所得者の平均は377.8万円なので、女性が9割を占めている看護師業界にあって、給与額が低いようには見えないのでしょう。

30代から昇給が鈍る?

年代別の給与から見ると、看護師の給与の上昇は30~34歳で早くも停滞し始めます。

20代では全体を上回っていた看護師の給与は、30代半ばから後半で完全に逆転されます。年収のピークを迎える50代前半では、同年代と100万円近い差がつきます。

このなだらかな昇給曲線の形は、金額の差はありますが、女性全体の昇給の傾向と非常に良く似ています。

20~30代前半の平均年収が相対的に高いために、看護師の給与に対して事実とは異なるイメージが先行していると言って間違いないようです。

平均年収の推移から見た場合、2013年から2017年にかけて労働者全体では約22万円、女性全体では約24万円の伸びが見られました。

一方、看護師の平均年収はこの5年間で約6万円程度の上昇にとどまります。

しかしながら、不況下にあっても横ばいを堅持できるのが看護師の給与の特徴です。

平成13年のサラリーマンの平均年収が454万円だったのが、平成23年には409万円まで落ち込んでしまっていた同時期、看護師の年収は平成13年480万円、平成23年475万円でした。

サラリーマンの年収が45万円も減少しているのに対して看護師の年収の減少金額は5万円に過ぎませんでした。

看護師の給与は景気動向に左右されにくい反面、社会全体の給与が上がっても反映されづらいという皮肉な一面もあります。

他の医療職との給与比較

看護師の昇給を医療業界にあるほかの職種と比べた場合には、どうなのでしょうか。

診療放射線技師、臨床検査技師、理学療法士、薬剤師、作業療法士、栄養士と給与を比較したデータでは、20~23歳までは看護師がすべての職種を上回ります。

しかし28~31歳の時点で臨床検査技師に、32~35歳ではこのなかでもっとも昇給の伸びが見られる診療放射線技師に追い抜かれます。

その後も緩やかに推移していき、最終的には一番給与の安い栄養士とほぼ同じ位となります。

薬剤師、理学療法士、作業療法士を含めた医療職では、30代以降に昇給カーブが大きく変化しますが、看護師にはそれほどの変化が見られないのが実情です。

社会人となった直後には他の医療職を抑えて第1位だった看護職が、キャリアを重ねるうちに第6位まで落ちてしまうという事実から、看護師職では昇給が期待しにくい現実が見えてきます。

看護師が昇給しない原因

女性ならではの要因が伸び悩みに

看護職の昇給の伸び悩みには、女性が9割を占めるという特殊な職業的傾向が関連しています。

女性の場合、結婚・出産・子育てなどといったことをきっかけに、やむなく離職することが多いものです。

いったん職場を離れてしまうと、正社員ではなく非正規雇用などの勤務形態に甘んじなければならないことも多く、そうなると給与は以前よりも下がってしまうことになります。

看護師求人のなかから、子育てとキャリアを両立させやすい求人を探すのは困難です。

子育てや家事を優先させるためには夜勤のない勤務先を選ぶ必要がありますが、看護師の給与を高い水準に押し上げている夜勤手当がなくなれば、おのずと給与は下がります。

看護師の転職求人はいくらでもありますが、年齢が30代以降でしかも残業や夜勤ができないとなると、給与面などの条件がいい仕事はかなり少なくなるようです。

また同じ職場で働き続けるにしても、産休や育休でブランクができると、その数年間の昇格・昇給は期待できません。

育休からの復帰後も、時短勤務などを望めば給与額は通常の8割程度となります。

こうした女性のライフステージの変化により、30代以降の給与の上昇が抑えられていることも要因として考えられます。

看護師の数に対して役職が少ない

また昇給しない理由の1つとして、看護師には昇格の機会が少ないことがあります。

昇給するためには昇進して役職に就かなければなりませんが、看護師の職場ではスタッフ数に対して役職が極端に少ないという現実があります。

看護師の役職としては副主任、主任、副師長、師長などがありますが、かなりのベテランにならないとこれらの役職に着くことは困難です。

スタッフが多いわりに役職のポストが少ないために、それだけ昇進のチャンスが少ないといえます。

仮にうまく昇進できても管理職になることで夜勤回数が減少したり、夜勤そのものがなったりすることも少なくありません。

給与の多くを占める夜勤手当が減少すれば、多少の役職手当がついても実質の手取り収入が減ってしまうということも起こり得ます。

さらに、ポスト的に昇進しても全体的な収入から見た場合、実質的な昇給率としては低くなる可能性が考えられます。

国立病院の昇給

国立病院の看護師の給与制度

看護師の昇給は医療施設ごとの違いが大きく、一律には扱われません。ここでは国立病院の看護師の昇給を例に、見ていきましょう。

国立病院の昇給は公務員に準ずるため、民間の病院とは少しシステムが違うかもしれませんが、参考にしている医療施設は多いと考えられます。

国立病院の昇給のシステムは、給与の支給と同様に国の定めに従った制度です。

国立病院の給与の額は「独立行政法人国立病院機構職員給与規程」の「医療職基本給表(三)」に従って決定されます。

医療職基本給表では「職務の級」と「号棒」の2つの項目が規定されています。「職務の級」は役職を表し、「号棒」は年次や経験、業務に対する評価によって決まります。

昇給すれば「職務の級」に反映され、勤務への評価は「号棒」に反映されます。この2つの軸によって、昇給がなされます。

勤務への評価である「号棒」は5つに区分されており、「Ⅰ」の「勤務成績が良好ではない」と見なされると昇給はありません。

その他の区分では棒数がそれぞれ設定されています。「Ⅴ」の「勤務成績が極めて良好」は最高位で、6号棒として表されます。

昇給の基準日は1月1日の年1回で、基本給が増額されます。

たとえば何の役職にもつかない看護師が10年間「勤務成績が極めて良好(Ⅳ)」の評価を取り続けた場合、どのくらいの昇給となるのでしょうか。

正看護師で役職なしであれば、「職務の級」は2級です。2017年時点で2級の基本給は207,800円となっています。

「勤務成績が極めて良好(Ⅵ)」では6号俸の昇給となり、10年連続すれば60号俸上ります。

2級ではプラスで70号俸の額がもらえるため、基本給は286,400円。10年間で78,600円の昇給したことになります。

民間の病院の昇給

民間の場合、昇給システムは各施設に任されているため、国立病院のように公表された具体的な数値は見られません。

ただ政府の働き方改革の推進を受け、病院の昇給制度を透明化する動きが見られます。

ある病院の昇給制度の例を見てみましょう。

  • 目標設定の基準にラダーを用いる目標管理
  • 2~3年の累積評価ポイントで基本給の昇給号棒数を決定
  • 単年度の評価ポイントで賞与の加算額を決定

クリニカルラダーは看護師の能力やキャリアを開発するための指標です。この病院ではこの指標を導入して、わかりやすい評価ポイントを実現しています。

また定期的にアンケートを取り、スタッフの意見を取り入れた人事評価制度を行っています。経営側の一方的な評価から、現場の不満が募らないように対策を進めています。

昇給のタイミングは定期昇給としており、昇給率はやはり昇給号俸数を採用しています。

前年の目標管理の目標達成度が、昇給額に反映されるシステムで年度はじめに目標設定し、期中と期末に目標の達成度を自己評価上司評価によって測ります。

この病院では成績不良者は昇給率が低くなりますが、減給という方式は取っていないようです。

職務上の身分に合わせた目標管理評価シートを評価ツールとして活用し、評価基準の明確化を推進しています。

2015年の病院給与勤務条件実態調査によると、病院の平均昇給額は以下のようになっています。

  • 看護師:4,272円
  • 准看護師:2,825円
  • 医療技術員(有資格):4,819円
  • 事務員:4,284円
  • 看護補助員:3,390円

ちなみに同年に調べられた東証一部上場の大手企業では、平均昇給額が8,235円でした。

クリニックの昇給

クリニックの場合、大手の民間病院よりもさらに昇給の状態がわかりづらくなっています。

美容整形クリニックなど、もともと給与が高めに設定されているところでは、年に1万円以上の昇給をしているケースもあります。

一方で個人経営クリニックの場合には、昇給システムが制度化されておらず、そのときどきの運営状況によって昇給の有無が左右されます。

大規模な病院であれば小幅であっても、長期間ほぼ同じ率での昇給が望めますが、クリニックの場合は安定的であるとはいえません。

クリニックではパートや短時間のアルバイトなど、時給で働く看護師も多く、何年働いても収入が同じということが多いようです。

派遣の場合もまた、更新時に時給がアップするのはかなり稀です。

しかし最近では看護師確保の対策として、クリニックでも定期昇給を取り入れているところは多数見られます。

そうしたクリニックの平均的な昇給額は2,000~4,000円程度です。

たとえ、わずかでも昇給が見られれば、働くモチベーションとなります。病院看護師の全国平均の昇給額は4,200円なので、クリニックで2,000~4,000円の昇給であれば、まずは妥当な額といえるでしょう。

看護師が昇給するためには?

病院の経営状態は要チェック

国公立系以外の医療施設の場合、看護師の昇給はその施設の経営状況に大きく影響されます。

看護師の給与が昇給するためにはまず、病院自体の経営が安定していなければなりません。

業績が好調で利益が上がっていれば昇給し、逆に経営不振で赤字が続いている様な状態では、昇給どころか良くて据え置き、最悪の場合は減額となることもあり得ます。

また経営状態が良い病院であれば、内部の各制度の整備が積極的に行われているため、昇給システムもわかりやすくなっているはずです。

求人情報では「1年目〇万円」「5年目〇万円」といったような給与の提示が見られますが、この内容が基本給の昇給を表しているのかを、しっかりと確認しておく必要があります。

単に手当の加算が多くなるといったものであれば、昇給とは呼べません。

なぜなら、資格手当や役職手当も大切ですが、個人に対する評価制度と昇給率を見ておかないと、長期に勤務してもまったく給与が上がらないということになりかねません。

将来的に失望しないためにも転職をする際には、昇給システムとその実施状況を確認するようにしておきましょう。

勤務先の評価システムを把握する

個々人の昇給率に関しては人事考課によって看護師としての能力や業務に対する貢献度、仕事に取り組む姿勢などについて総合的に判断し、給与規定に基づいて決められるのが一般的な昇給の仕組みです。

しかし、勤務先の人事評価のシステムが良くわかっていないと、同僚の方が多く給料をもらっていることにショックを受けるといった事態もあり得ます。

昇給のしくみは大規模な病院であれば、先の例で見たようなポイント制や国公立病院に倣って明確に棒数制度を取り入れているところがほとんどです。

ただし、評価軸については病院ごとに個性があるので、どのような点がもっとも昇給につながりそうなのかを知っておく必要があります。

たとえばある病院では目標設定へのアプローチの姿勢が重視され、ほかの病院では後輩看護師への指導姿勢が重く見られるということもあります。

昇給を目指すのであれば、自分の業務を確実に遂行するのはもちろんですが、加点対象となる項目についても意識していかなければなりません。

勤務する施設の規模に関わらず、評価項目となるものには以下のような例が挙げられます。

応答・挨拶・返事
患者、同僚に対しての明快な応答。明るい表情や相手への目線、積極的な挨拶。
社会人としての業務上の基本姿勢
「報・連・相」を徹底し、独断で判断せずに情報共有しながら課題に向かう。業務終了後の報告の徹底。
仕事の正確性
業務内容をしっかりと理解し、他のスタッフとの齟齬なく、連携をとって遂行しているか。自身の役割を確実に果たしているか。
向上心・向学心
患者サービスの向上や業務改善への積極性が見られるか。院内研修や勉強会への積極的な参加。専門技術や知識の吸収への姿勢。

昇給につながる行為というと何か特別なことに思われますが、看護師にとっては患者への誠実な姿勢正しい看護ケアが評価の要となります。

また、日々の業務のなかにこそ、昇給へのカギがあります。

看護師の収入向上については他業種と比較しても恵まれた状況にあるとはいえませんが、職場が求める看護師像を理解することで、昇給のチャンスが開けます。

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