[ 記事作成日時 : 2014年8月20日 ]
[ 最終更新日 : 2023年7月14日 ]

看護師のグリーフケア力「患者遺族や自分のために」役立つ資格と学び

看護師のスキルアップ

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医療の現場で働く以上、人の死に立ち会うことは避けられません。グリーフケアは看護師にとって、必須スキルのひとつです。

しかし、実際にはどのように患者遺族のグリーフケアをしていけば良いのか、また自分自身の心をどう癒していけば良いのか悩んでいる看護師も少なくありません。

ここではそうした看護師のために、患者遺族への接し方やグリーフケア、具体的な学習方法、資格の取り方などを紹介すると同時に、看護師自身のグリーフケアも、解消法・解決法をご紹介します。

      
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看護師に求められる「グリーフケア力」

グリーフケアの「Grief」とは、深い悲しみや悲嘆という意味です。近しい人を失い、悲嘆にくれる患者遺族の心のケアをするのは、看護師の大切な役目であると言えます(在宅医療助成勇美記念財団「地域に根ざした看護職が行うグリーフケア、思いやりのあるまちづくりをめざして」)。

愛する存在と死別した人が悲嘆するのは、人間として当然の反応です。しかし中には後追いをしかねないほど精神的に落ち込んだり、日常生活になかなか戻ることができなかったりする人もいます。

看護師はグリーフケアを通して患者遺族が悲しみから立ち直り、患者の死を受け入れながら前向きに暮らしていけるよう促します。 グリーフケアは単なるその場限りのなぐさめではなく、死別が及ぼす心理的な影響とそこから生じる生活などへの配慮が必要となります。看護師がグリーフケアを適切に実施していくためには、そうした点を理解し、プロとしての知識を学ぶことが求められます。

患者遺族のグリーフケアの実態

グリーフケアにおいて、病棟と訪問看護ではどのように違うのでしょうか。

病棟看護でのグリーフケアの実態

病院のような医療現場では時間的な問題もあり、グリーフケアの実施がなかなか難しいのが現状です。スタッフ人員が十分でない中では、患者遺族に割ける時間は限られています。

そんな中、ホスピスや緩和ケア病棟の約8割は、患者遺族に手紙を送るといったグリーフケアを行なっているという調査結果もあります。

ただ遺族会などのグリーフケア活動には、診療報酬の点数が付きません。病院経営という観点からは、医療施設側が行なえるグリーフケアには限界があるというのが現実です。

訪問看護でのグリーフケアの実態

東京都健康長寿医療センター研究所が実施した「訪問看護事業所における遺族支援の実態調査」によると、75% の事業所が、「遺族支援は事業所あるいは遺族にとって意義がある」、「遺族に接する上で工夫をしていることがある」と回答しています。

実際に行っているケアの主な内容としては、傾聴、言葉かけ、遺族訪問などが挙げられます。 また訪問看護という特性上、終末期の在り方が家族の悲嘆に大きく影響すると考えられており、「介護の過程を密に共有する」ことや終末期ケアが本人・家族の意向に沿ったものとすることなども、グリーフケアの一環とされています。

訪問看護ステーションによっては、遺族に対するグリーフケアや遺族訪問を業務の一環として位置づけ、記録に残しているというケースも見られます(明和病院 訪問看護センター明和「訪問看護師の看取りの看護実践の能力育成とその課題に関する研究」)。

グリーフケアにおける病棟看護師の役割

ターミナルケアについての研究では、患者が十分なケアを受け安らかに亡くなることやQOLの質が高かったと感じられることが、患者遺族のグリーフを和らげるのにつながるという結果もあるようです。

先にもあったように病棟看護師は、患者が亡くなった後、長期にわたってその家族のグリーフケアに携わるのは難しい立場にあります。

しかし患者が病棟で療養しているときから患者とその家族と信頼関係を築いておくことで、 看護師の声かけなどによるグリーフケアの効果が高まります。 患者や家族の気持ちを汲み取り、満足度の高いターミナルケアをすることが、グリーフケアとなるのを知っていれば、業務についての考え方にプラスとなるでしょう。

看護師にとっては多くの患者のうちの1人に過ぎませんが、患者の家族は些細なことにも気付き、記憶しているものです。看護師の当たり前の業務である日々のケアが、グリーフケアにつながっているのを忘れないようにします。

患者がどのように病気と闘ったのかを知る看護師には、故人の生前のエピソードを家族と共有することができます。「つらい治療にも弱音を吐かずに向き合っていた」「ご主人が顔を見せるのを心待ちにしていた」など、看護師だからこそ知り得るエピソードを遺族に伝えることは、家族の気持ちを温かくするでしょう。

看護師に家族の喪失感を消すことはできません。しかし、家族の精神的な混乱を少しずつときほぐし、整理していく手助けをするのはできます。 病棟の看護師は患者遺族の心に寄り添いながら、故人との別れを現実のものとして受け止められるように導いていくという役割を担います。

グリーフケアにおける訪問看護師の役割

「グリーフケアの実態」にあったように、訪問看護においては残された家族に対してのグリーフケアが医療施設よりもしやすい環境にあると言えます。

しかし生前からの家族との信頼関係構築が重要であることは、病棟看護師と変わりません。むしろ、グリーフケアで訪問するためには、一層信頼が必要であると言えるでしょう。信頼関係が築けていない場合、「グリーフケアは必要ない」と遺族から拒否をされるということも考えられます。

在宅での介護では自宅で看取ることに不安を感じている家族が多く、訪問看護師はそうした気持ちをはき出させ、不安感を軽減させていく必要があります。

看護師は、医師やケアマネジャーなどとの密な連携を取る要としての役割を果たします。 さらに訪問看護師には利用者の生前から、家族の健康状態もチェックしておくことが求められます。残された家族が社会の中で健全に生きていけるよう、地域包括支援センターなどとの連携も視野に入れておく必要があります。

看護師のための「グリーフ・チェックテスト」

まずは何も先入観がない状態で、以下の項目に自分が当てはまるかどうか、チェックをしてみてください。

  • 業務の量に対して疲れやすく、身体を重く感じる。
  • 食欲がない・熟睡できない。
  • 何を見ても楽しくない。
  • 感情をコントロールできず急にイラついたり涙が出たりする。
  • 理由のない罪悪感を覚える。
  • 常に不安感がある。
  • 将来に希望を持てない。
  • 物事に集中できない。
  • 何もかもが虚しい。
  • 予定がないと落ち着かない。

当てはまるものはありましたか? 他に原因が思い当たらないのに、上記チェックテストに一つでも当てはまるようなら、あなた自身がグリーフケアを必要としているかもしれません。

看護師は遺族に対してグリーフケアを行うと同時に、自分自身に対するケアも忘れてはなりません。

自身のグリーフに気づいていない、あるいは見ないふりをしている看護師も数多くいます。悪化させないために、まずは自覚をもつことが重要です。

何となく体調や気分がすぐれないといった程度であっても、長期に続くようであれば看護師の職業病ともいえる「プロフェッショナル・グリーフ」である可能性を疑ってみる必要があります。

看護師が悩むプロフェッショナル・グリーフ

これまで見てきた患者遺族の個人的な悲嘆をパーソナル・グリーフと呼ぶのに対し、看護師など医療従事者に現れる職業的な悲嘆をプロフェッショナル・グリーフと言います。

病院や介護施設、在宅ケアなどの現場に関わる看護師は、日常的に人の死を目の当たりにしています。遺族のように直接的なものでないにせよ、命が失われるのを見るのは人としてとてもつらい出来事です。

それが積み重なっていくうちに、精神的に疲弊し、看護師自身の心を崩壊させる恐れもあります。

医療に携わる職種では、プロとして感情を表さないことが求められ、個々の患者の死を冷静に受け止めるよう訓練されます。 しかし、どれほど有能な看護師であっても、感情は別です。

押さえ込まれた悲しみや苦しみは看護師に大きなストレスを与え続け、ある日突然糸が切れた状態となることも珍しくありません。

前出のチェックテストでもご紹介したように、プロフェッショナル・グリーフはさまざまな症状を伴います。

症状が進むと何に対しても意欲に乏しくなり、好きだったことに向かっても楽しく感じられなくなります。わずかなことで落ち込んだり自分を卑下してみたりし、生きている価値を疑うようになるといった傾向も出てきます。

パーソナル・グリーフと違い、表面化することが許されない悲嘆と言うこともできるでしょう。

プロフェッショナル・グリーフの特徴には、以下のようなものがあります。

  • パーソナル・グリーフのように表面に出にくくグリーフが隠れている。
  • グリーフがわかりづらいので慢性化する可能性がある。
  • 本人や周囲が意識しないためケアが遅れ重症化することもある。
  • グリーフが怒り・罪悪感・無力感・不安感など悲しみ以外の感情となって現れることが多い。
  • 原因となる「喪失」からグリーフが現れるまでに時間がかかることもある。

プロフェッショナル・グリーフが重症化すると、看護師という職業に対する意欲が失せたり嫌悪感を抱いたりするなど燃え尽き症候群につながるケースもあります。

燃え尽き症候群では生活や仕事に対して投げやりな気持ちとなり、最悪の場合には看護師を辞めてしまうといったことも考えられます。

自分で自分を癒すグリーフケア

どれほど心の強い看護師であっても、プロフェッショナル・グリーフとなる可能性はあります。人の死をくり返し経験せざるを得ない看護師という職業が、特殊な環境にあることをしっかりと意識しましょう。 自分でできるグリーフケアの方法を紹介します。

  • 自分の気持ちに素直になる。涙を無理に止めない。
  • 自分の気持ちを表現する方法を探す(音楽・アートなど)。
  • 同僚や先輩と話をして辛さを共有する。
  • 気持ちを文章として書き表す。
  • カウンセリングを受ける。
  • 食生活・できる限り規則的な生活を送る。
  • 汗をかいて発散する。

プロフェッショナル・グリーフは、感情を長期に押しとどめることが大きなストレスとなって発症します。それを癒すためには、業務以外でなるべく気持ちを楽にできるよう仕向けていくことです。

自分のつらさを認めてそれを内側に閉じ込めず、外へ出すようにしていかなければ、負の感情が積み重なっていくばかりです。

また心と体は一対のものです。心を強くするためにも、身体状態を良くしていきましょう。食事内容に気を付け、良く眠り、適度な運動をすることは、プロフェッショナル・グリーフから自分を守るために最低限の心がけと言えるでしょう。

グリーフケアを学ぶ

専門職である看護師にとって、グリーフケアは積極的に学ぶべきもののひとつです。どのレベルまで学ぶのかは人それぞれですが、ここでは実践的な学習の方法を見ていきましょう。

グリーフケアの資格をとる

グリーフケア資格には、現在のところ公的な制度はありません。ここで紹介しているのは、いずれも民間資格です。しかし、グリーフケアについて体系的に学ぶためには、資格取得に向けた講座の受講は有効手段と言えるでしょう。

看護師にとってグリーフケアに関する資格取得が、必須というわけではありません。

それでも資格取得の学習を通じて終末期への患者とその家族への関わり方、グリーフケアへの理解と実践力を身に付けることは、看護師業務の大きな力となるでしょう。

上智大学グリーフケア研究所認定臨床傾聴士/上智大学

「臨床傾聴士」は、上智大学グリーフケア研究所が認定する独自資格です。資格取得にあたり、「グリーフケア人材養成課程」(2年制)の所定の単位の修得と、審査合格が必要です。

グリーフケア・アドバイザー/日本グリーフケア協会

悲しみのケアの担い手として日本人の死別悲嘆の反応と悲しみを癒すアプローチ法を学び、実践します。初級・中級・上級コースがあります。

グリーフ・カウンセラー/グリーフ・カウンセリング・センター

入門・基礎コース・上級コース受講後、トレーニング・コース(グリーフ・カウンセラー養成講座/資格取得向け)にてさらに専門的な知識を取得します。

グリーフケア専門カウンセラー/日本電話カウンセリング協会

同協会の心理カウンセラー取得後のスキルアップ講座です。通学以外に、スカイプで講座を受講できます。

グリーフ専門士/日本グリーフ専門士協会

アドラー心理学をもとにしたグリーフケアの専門士を養成します。無料で受講できるweb講座もあります。

講習・研修を受ける

資格取得をしないまでも、グリーフケアの正しい知識を得るための講習に参加するのは、とても意義深いことです。独学で浮かんだ疑問を解消し、より実践的なケアの方法についての知識が得られます。

介護施設で働く看護師に向けた総合的な研修プログラムでは、グリーフケアについても学ぶことができます。その他、各都道府県の看護協会では、終末期医療のグリーフケアをテーマとした講座が随時開催されています。

他にも、大学の講座や、地方自治体で実施しているグリーフケア講座もありますので。お済ア日木で受講できる講座がないか探してみてください。いくつか紹介しておきます。

書籍を読む

セミナーや研修後の予習・復習に、業務の中で感じた疑問について考える参考に、良い書籍を読むことはとても大切です。 グリーフケアを理解する上で役立つ、推奨図書をご紹介します。

  • 日本看護協会出版会「はじめて学ぶグリーフケア」(著者:宮林幸江、関本昭治)
  • 日本看護協会出版会「家族看護 20」(編集委員:鈴木志津枝、宮林幸江、児玉久仁子)
  • 日本看護協会出版会「家族を支え続けたい!ナースが寄り添う グリーフケア」(著者:宮林幸江、関本昭治)
  • 日総研出版「愛する人を亡くした方へのケア グリーフケアの実践」(著者:宮林幸江、関本昭治)
  • 日総研出版「看護職・介護職が行うエンゼルケア・死化粧とグリーフケア」(著者:笹原留似子)

まとめ

大切な家族の死は、残された人たちの心に傷を負わせます。看護師はその気持ちに寄り添い、グリーフから立ち直るサポートをする役割を果たす存在です。人として、看護のプロとしてでき得る限りのケアをしていかなければなりません。加えて自分自身の中のグリーフに早期に気付くことも、看護師を続ける上では重要です。グリーフケアについての知識を深めながら、ケアの力を高めていきましょう。

この記事を監修した人
はる
地方の公立大学病院小児科病棟で2年勤務したのち看護師をやめ都内のIT企業に転職。結婚を機にUターンし専業主婦となる。10年のブランクを経て訪問看護師として復職。その後、急性期病院の外来・救急外来勤務を経て、療養型病院の病棟師長として勤務。家族の都合により上京後は回復期リハビリ病棟に勤務。看護師として通算15年以上の臨床経験がある。現在はココナスにて記事の企画、監修をはじめメディア運営を行う。
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