職場は標高3,180m。日本に37人しかいない山岳看護師の素顔
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人材不足が騒がれる看護業界。資格を保有していながらも看護職についていない、潜在看護師の増加が問題となっている。
潜在看護師になる理由としては、結婚・出産によるライフスタイルの変化や、働き方や職場環境に対する不満や不安といったものが多い。女性の割合が高い職業柄、前者による離職はやむを得ないが、後者には改善の余地がありそうだ。
この記事を読んでいるあなたも、看護師の働き方や職場環境に不満があるのなら、思い切って変えてみるのはどうだろうか。
今回は自身で働き方を大きく変え、新たな挑戦を始めた看護師にスポットを当てた。もっとやりがいのある環境へ身を置きたいと考えている方は、ぜひ参考にしてみてほしい。
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この記事に書いてあること
雲の上の診療所で働く1人の山岳看護師
新宿から長野県松本市まで、高速バスで約3時間。さらに上高地バスターミナルを出発し、険しい登山道を進むこと8時間。
合計11時間の旅路の末、標高3,180mの槍ヶ岳山頂にようやくたどり着いた。眼下には絨毯のように雲海が広がっている。
山荘の一角にこじんまりとたたずんでいるのが、『慈恵医大槍ヶ岳診療所』。体調を崩した登山客や山小屋のスタッフを診療するために、7月中旬~8月中旬の登山シーズン中にのみオープンしている。
ここでは一般病院に勤める看護師の他に、山岳看護師と呼ばれる特別な資格をもった看護師が働く。
おそらくココナスの読者でも、山岳看護師という職業を知る人は少ないだろう。実際、医療や山に携わる者でも知らない人が大半を占める。それだけ山岳護師の認知度は低い。
そこで、慈恵医大槍ヶ岳診療所で働く山岳看護師の小林美智子さんに、『山岳看護師とはどういった職業なのか』を伺った。
小林さんは病院で看護師として20年以上働き、2018年に国際山岳看護師となった。
登山シーズン中は全国各地の山岳診療所を渡り歩く。自身も長期休暇に、世界中の名峰を攻める本格派だ。
まずは、山岳看護師の業務内容について説明してもらった。
「山岳看護師は、山岳や野外に関する幅広い活動をしています。山岳診療所では、おもに登山中にケガをしたり高山病にかかったりした人をみていますね」
槍ヶ岳診療所の場合、多い日には十数人を超える人が体調不良や怪我を理由に訪れる。
「特に多いのは、高山病にかかってしまった患者さん。高山病とは、気圧が低くて酸素の薄い高地で発症する病気で、おもに頭痛や吐き気といった症状が現れます。重度になると、後遺症が残る場合や、死に至ることもあるので侮れません」
「高山病の場合、1番の治療方法は症状が現れ始めた標高以下まで下山することなんです。なので、患者さんに『どのあたりから症状が現れたのか』を確認し、症状が改善されなければ下山してもらいます。患者さんの容態によっては、私たち山岳看護師が一緒に下山することもあるんですよ」
ただでさえ過酷な登山道を、患者を気遣いながら共に下山するのは想像以上に過酷だ。並大抵の体力でできることではない。しかし大変な分、患者さんから「心細かったけど、看護師さんのおかげで安心できたよ。ありがとう」と声をかけてもらったときの達成感もひとしおだ。
山岳医療のプロフェッショナル『山岳看護師の働き方』
診療所では、遠隔医療支援システムを構築して、大学病院の専門医からリアルタイムで医療支援を受けられるため、常に正確な診療が可能だという。
過酷な業務をこなす山岳看護師。どういった勤務体制で働いているのだろうか。
「槍ヶ岳診療所の場合、基本的には医師も看護師も2泊3日の交代制で勤務しています。勤務形態はボランティアがほとんど。休日などを利用して入所するんです。常勤している者はいないので、一緒に働くドクターや看護師が初対面の場合もありますが 、医師と看護師が二人三脚で登山者の健康を見守っています」
山岳診療所は、登山者の健康を見守るボランティア活動および教育の場として設立されている。
そのため、医師や看護師および学生が入所日程を調節し、ボランティアとして活動することが一般的だ。
手当の出る診療所も少しずつ増えているそうだが、数としてはまだまだ少ないのが現状だという。
「まず入所してからは、登山ルートのコンディションや気象状況、薬の在庫数、医療器具などを確認します。前回の勤務と比べてから、薬や医療器具の配置が変わっている可能性もあるので、現状を把握しておく作業は欠かせません」
登山ルートのコンディションや気象状況を確認しておくのは、起こりやすい事故や症例を想定、把握するためだ。
「その後は診療所を訪れた患者さんの対応を行います。高山病の疑いがあれば、専用の機器を使って血中酸素を測定し、脱水症状を起こしていれば、経口補水液を飲んでもらうなどします。中にはエネルギーが足りていないシャリバテ(食事を取っておらず、血糖値が下がっている状態)により、体調を崩している場合もあるので、その場でおにぎりやパンを食べてもらうこともありますね」
忙しいときは、休憩を取る時間もなく1日が終わる。
「山岳診療所にいる間、非番の時間はありません。私たちしかいないので、24時間どんなときでも対応しています」
登山できる時間は、基本的には日中のみに限られている。日が沈むと遭難や滑落の危険性が格段に上がるからだ。ともすれば、夜に診療所を訪れる患者は少なくなりそうなものだが、実際は違う。
小林さんいわく、高山病にかかり体調を崩す登山客は、夕方からの時間帯にも少なくないそうだ。
原因は飲酒と睡眠。槍ヶ岳といえば登山者にとって、いつかは登ってみたい憧れの山だ。山頂に到達した達成感から、ビールなどのお酒を飲む人は多い。
「アルコールには、利尿作用や呼吸回数を減らす作用があるので、飲酒は脱水症状や酸欠を招きやすいんです。標高の高い山ではアルコールのまわりが早く、お酒が強い人でも酔いやすくなる」
酔った状態での睡眠は、呼吸が浅く回数も減るため、夜から朝にかけて高山病になりやすいのだ。
診療所に入所している間は、昼夜問わず気を張っておく必要がある。勤務するうえで大切なことは『対応力』と小林さん。
「アクセスが悪い場所ですから、物資は限られています。だから、どんな状況でも今あるのもので『やりくり』するしかない。普通の病院やクリニックなら当たり前にあるものが、ここにはそろっていないんです。ただでさえ『あれがないからできない』は、医療現場では通用しませんよね。それが山の上ではなおさら」
人の命と向き合う医療現場で、必要なものがそろっていない環境に身を置くのは、かなりのストレスやプレッシャーがかかるはずだ。小林さんは、なぜあえて過酷な環境に身を置くのだろう。
小林さんが山岳看護師になろうと思ったキッカケ
彼女が山岳看護師になろうと思ったキッカケは、尊敬するクライマーの滑落死だった。
「谷口けいさんという女性のクライマーがいたんです。本当に憧れていて、彼女のようになりたいと思い、私もアルパインクライミングにのめり込みました」
谷口けいさんは、エベレストやスパンティーク(パキスタンの標高7,027mもある山)などの世界的に有名な山にも登頂している登山家・クライマーだった。
彼女の滑落事故から、小林さんは『自分の好きな山で亡くなる人を減らしたい』と強く思い、山で起こる事故にも強い関心をもつようになる。
「遭難事故や山で起きたアクシデントを調べていくうちに、安全に登山をするための知識とスキルをもっていれば、最悪の事態を防げたケースが多いことに気がついたんです。だから看護師として何かできるのではないかと思いました」
もともと看護師として整形外科や救急の現場に勤めていた小林さん、山岳看護師を目指すのは自然な流れだったのかもしれない。
山岳看護師の資格は、日本登山医学会が認定してる『国際山岳看護師』と『国内山岳看護師』の2種類。
2019年1月の段階で、日本で山岳看護師を名乗れるのは37人。そのうち国際山岳看護師はわずか7人のみだという。
それぞれの認定をもらうためには、日本登山医学会に入会し、数回にわたる講習や試験を受ける必要がある。
雪山での登山は足場も悪く、体力を消耗しやすい。
試験内容には、座学はもちろん、実地での研修や実技試験がある。特に難関とされるのは冬の八ヶ岳の実地試験だ。実際に雪山へ登り、山岳看護師に必要な登山スキルや知識が試される。
小林さんは猛勉強の末、「国際山岳看護師」を取得した。
資格を取得するのが難しい山岳看護師。収入面も高待遇でよさそうなものだが、前述のとおり、山岳看護師の多くはボランティアとして従事しているのが現状だ。
看護師といえば、休日も決して多くない職業。少ない休日を返上してまで、どうしてボランティアとして山岳看護師を続けるのだろうか。
『やっぱり山が好きだから』山岳看護師が無給でも山に登り続ける理由
「やっぱり山岳看護師って山が好きなんですよ。大好きな山でケガをしたり命を落とす人を減らしたい。私の場合、最初は看護師としての日常から離れてリフレッシュするために登山を始めたのですが、気がついたら山の上でも看護師をしていました」
「山岳看護師だからこそ感じられるやりがいもあります。登山者たちと楽しくコミュニケーションができるのもそう。『今日は昼から天気が悪くなるらしいよ』とか『今あの道は通れなくなってるよ』とか。さっきまで顔も知らなかった人と、気楽に会話したり助け合ったりできるのは、やっぱり山の上だからなんですよね」
さらに小林さんは続ける。
「あとは、この絶景を眺めながら働けるのも山岳看護師を続ける理由ですね。雲の上から朝日が登る瞬間を見られるのも、満天の星を見上げられるのも山の上だからこそ。雄大な景色を眺めていると、どんな問題や悩みも小さなことに思えるんです。やっぱり山ってすごいんですよ」
「でも一番やりがいを感じるのは、体調を崩して診療所を訪れた患者さんが、元気になってまた来てくれたとき。『この前はありがとう』って笑顔で訪問してくれる姿を見ると『山岳看護師をやっててよかったなぁ』って心の底から思います」
ガスや水道などのインフラ設備はなく、電気も自家発電でまかなう同診療所。インフラが整っていない分、やりきったときの達成感は大きい。
山岳看護師の存在をもっと多くの人に知ってほしい
そして2018年秋、小林さんは山岳看護師として大きな決断をした。
「今勤めている病院を辞めて、フリーの山岳看護師として独立するんです。これからは今までの経験や知識を活かして、山のプロとして生計を立てていきたい」
独立後は山岳診療所の業務に加え、登山ガイドやイベントの救護班、アウトドアに関する講演会やセミナー、研修会などに携わっていく。
しかし課題もある。山岳看護師の認知度の低さだ。冒頭でも述べたとおり、山に関わる者や医療現場に立つ者の中にも、その存在を知るものは少ない。
「山岳看護師の存在さえ認知してもらえれば、充分に職業としても成り立つんです。野外イベントやトレイルランニングなどの救護班、テレビ番組が行う登山企画の同行など、山岳看護師が活躍できる場は意外と多い」
存在が知れ渡れば、ボランティアだけではなく、プロとして生計を立てていける山岳看護師が増えていくだろうと小林さんは考える。
現に小林さんは、自身が山岳看護師として活動を続けていくにつれ、オファーが増えてきているそうだ。
「これからは、山岳看護師を多くの人に認知してもらえるような活動にも注力したいと考えています。私がロールモデルになることで、山岳看護師がボランティアとしてだけでなく、社会に認められた職業になっていけばうれしいです」
そう話す小林さんの眼差しからは、山に対する熱い想いと山岳看護師として生きていくことの覚悟を感じた。小林さんの挑戦は始まったばかりだ。
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