[ 記事作成日時 : 2018年12月20日 ]
[ 最終更新日 : 2020年1月31日 ]

離島で働く看護師の日常は?離島生活に大切なのは『上手にあきらめること』

離島で働く

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東京から新幹線と電車を乗り継ぎ新潟県村上市へ。船着場から日に数本出ているフェリーに乗って約1時間半。

そこには車で1時間あれば、ぐるっと一周できるほどの小さな島『粟島』があります。

人口わずか350人、島民のほとんどが顔見知りというこの島にある『粟島へき地出張診療所』では、2人の看護師が働いています。

今回はそのうちの1人、離島で働く道を選んだ男性看護師にお話を伺いました。

      
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離島で看護師として働き始めたキッカケは『先輩からの誘い』

離島看護師

神丸 惣(かみまる・そう)さんは粟島出身の26歳。

島外の高校に進学し、そのまま看護専門学校へ。卒業後、県内の病院に2年6ヶ月間勤務。2017年に粟島へき地出張診療所へ入職。

ーー早速ですが、神丸さんが離島で働くことになったキッカケを教えてください。

僕はもともと内地の病院にいたのですが、粟島で働く先輩に誘ってもらったことをキッカケに働き始めました。僕は粟島生まれなので、移住というよりは里帰りのような感覚ですね。

離島に戻って働く

粟島の良いところも大変なところも知った上で戻ることを決めたので、移住前と移住後のギャップとかにはお答えできないかもしれません(笑)。

離島で看護師として働くメリット(良いところ)

離島の風景

ーーでは神丸さんの思う、粟島で働くメリットを教えてください。

やっぱり、美しい海に囲まれながら働けることですね。粟島の海は、日本海とは思えないほど透き通っているので眺めているだけでも心が落ち着きます。

自転車で患者さんの自宅まで診察に行く訪問看護もあるので、勤務中にも波の音が聞けたり海が見えたりするんですよ。これも離島で働く大きなメリットだと思います。

ーー自転車で診察。まるで「Dr.コトー診療所」のようですね。

たしかに(笑)。ただ、あのドラマと違って粟島にはドクターがいないんです。

離島で看護師をすると『判断力』が身につく?

遠隔診察の装置

▲本土の病院から遠隔でドクターが患者さんを診察するための装置

粟島へき地出張診療所では看護師2人の勤務体制を取っているので、どんなときでも看護師だけで対応しなくてはなりません。

僕たち看護師にできることは限られていますから、患者さんを診るときには「本土の病院に送る必要があるかどうか」の判断力が大切になるんです。

診療所で対応できる範囲ならその場で対応しますが、難しい場合は高速フェリーやドクターヘリで本土に送り届けることになります。その判断をするのは、ここにいる僕たち看護師なんですよね。

だから離島で看護師をしていると、決断を迫られる機会に遭遇するんです。逆にいうと離島で働くというのは、看護師にとって『判断力』が培われやすい環境かもしれません。これもメリットといえばメリットですね。

ーー看護師としての成長にも繋がるわけですね。たしかに本土の病院勤務の場合は、現場にドクターがいるので、看護師が直接判断を下すタイミングって少ないのかも。

離島で働く看護師とそうでない看護師の働き方の違いは『裁量』

離島の男性看護師

ーー看護師として普通の病院で働くのと離島で働くのでは、どういった違いがありますか?

やはり『裁量の大きさ』だと思います。ドクターがいないので、どんな状況でも自分で考えて行動する必要があるんですよね。だから普通の病院と比べると、看護師としての裁量は格段に大きい。責任もプレッシャーも半端じゃないですが、その分、看護師としては成長できる環境とも言えますね。

離島で看護師をするとお金が貯まる?気になるお給料事情は

離島の夕日

ーーでは、離島で働く看護師のお給料事情について伺ってもよろしいでしょうか?

お給料に関しては、ひとくちに離島と言っても働く地域によって違うのでなんとも言えないですね。粟島へき地出張診療所の場合は、県内の病院のお給料水準とそう変わりません

でも、貯金はしやすい環境だと思いますよ。島にはお金を浪費する場所もないですから。

ーー貯金しやすい環境というのも、離島で看護師をするメリットかもしれないですね。

はい。ただ本土に出かけたときに爆買いする癖をつけると、全然貯まらないので注意した方がいいかも(笑)。島でお酒やお菓子を買うと割高になるので、本土に行くとコンビニですら安く感じてしまうんですよ。ついつい衝動買いをしちゃう(笑)。

ーーそれはデメリットにもなりそうですね(笑)。では離島で生活する方が結果的にはお金がかかってしまうことも?

いえ、そういうわけではないんです。島にいてもAmazonや楽天は使えるので、うまく活用すれば特別お金がかかるわけではありません。普通に生活する分にはお金はかからないはずです。野菜や魚は安いし、ご近所さんからおすそ分けをもらえる場合もありますから。『遠出したときに浮かれないこと』さえ気をつければ大丈夫です(笑)。

ーーなるほど。やり方次第というわけですね。

離島で看護師をするのには向き不向きがある?大切なのは『上手く諦めること』

離島の民家

ーー現在、粟島へき地出張診療所では今も求人募集をしていますよね。どういった看護師の方が応募されているのでしょうか?

短期を希望される方や完全に移住を希望される方など、人によって様々ですね。共通しているのは、自然が好きということくらいかなぁ。離島で看護師をするのにも、向き不向きがあるんですよ。理想と現実の違いに適応できず、辞めてしまう看護師もいるんです。

ーーそれはなぜでしょうか。

まず挙げられるのは、『都会のような利便性』がないことですね。粟島のような離島で暮らすと、日常的にスキューバダイビングや乗馬ができます。

離島看護師の休日

でも、24時間やっているコンビニやボウリングなどの娯楽施設はない。当然と言えば当然ですが、自然の中で生活するということは、都会の便利さは捨てることになるんです。

あとは人間関係ですね。粟島の人口は350人と少ないので、島民の誰もが顔見知りの状態です。そのおかげで人との繋がりが強く、野菜や魚をおすそ分けしてくれたり気軽にコミュニケーションが取れたりします。

人と人との距離が近い分、日常的に人の優しさを感じることができる。これは離島ならではですよね。

離島の生活

逆に言うと、どこに行っても知り合いがいる状態なので、プライバシーの確保が難しいんです。

ーー良い意味でも悪い意味でも人と人との距離が近いんですね。では、ひとりの時間を大切にしたい人は、島の生活は向いていない?

そういうわけではないんですよね。山に登ったり夜の砂浜に行ったりすれば、1人の時間を作ることはできます。でも、それを誰かが見かけて「この前、1人で海にいたでしょ」とか言われることもあるんです。問題なのは、それを苦に感じるかどうかですね。

ただ、島のみんなも悪気はなくて、人と人の距離が近い環境では当たり前のコミュニケーションなんですよ。

ーー人と人とのつながりが強いからこそ起きる問題なんですね。それを心地よいと感じる人もいるだろうし……。難しいですね。

そうなんですよ。だから僕は、離島で快適に生活するためには、「上手に諦めること」が必要だと思っています。離島で暮らしていると今の話のように、どうにもならないことに直面することがあるんです。

ーーだから上手く諦めていくしかないと。

はい。ただ、自分の中で折り合いをつけられれば、間違いなく楽しく生活できると思いますよ。

離島で働くためには経験した方がいい部署は『救急外来』

離島の港の風景

ーー離島で働くにあたり、どういった科目や部署を経験しておいた方が良いでしょうか?

離島では幅広いジャンルの知識が求められます。小児や内科、外科など経験できるものは全部しておいたほうがいい。でも強いて言うなら、救急外来ですかね。どんな状況でも冷静に対応する必要がありますから。

ここでは教育研修がないので、基本的に実地で学んでいくしかありません。だから島で働く前に、受けられる研修などは受けておくといいですね。

ーー部署を問わず、看護師としての経験を積んでおいた方が良いと。

ええ。島民の中には、医療面でも独特な価値観を持っている人もいます。例えば、頭がパックリ割れるような怪我をしても、アロエを塗っておけば大丈夫と考えている人もいる。そういった方と出会ったときにも、冷静に対処するには、それなりの経験が必要だと思うんですよ。

現に僕も「もっと経験を積んでおけば」と少し後悔していますから(笑)。

最後に

離島看護師の楽しみ

ーーでは最後に、離島で働きたいと考えている看護師に向けてメッセージをいただけますか?

向き不向きはありますが、やっぱり離島での生活は刺激的で楽しいんですよね。満員電車や渋滞もありませんし、海も星空も綺麗なのでアウトドアが好きな人にはもってこいの環境です。

今日は色々お話しましたが、やっぱり自分に合っているかどうかは来てみないとわかりませんから。自分が働きたいと思う離島があるのなら、ぜひ一度訪れてみて欲しいです。

取材協力:粟島へき地出張診療所

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